当日ドキュメント・舞台の上

緞帳の裏では、準備があわただしく進んでいます。


地方さん方にご挨拶をし、
立ち位置に立ちます。


「明かりが点いた瞬間、
顔をこわばらせるなよ」
これが師匠からの最後の御指示です。


後見さんが衣装の裾を整えて、下さっているとき。



普通、皆さん、こんなこと、なさらないのかもしれませんが。


私は、どうしてもどうしても、
その時、そうせずにはいられなくて。


思わず、師匠に向かって、無言で右手を差し出しました。

「??何?」


右手をもう一度強く、出す私。



師匠が、気がついて右手を差し出してくださいました。


私は、師匠と、舞台の真ん中で、握手をしました。





「もうー。僕の手が白くなっちゃうよー」
師匠が笑いながら仰いました(笑)
(そりゃそーです。私の手は真っ白け♪・・す、すみません・・)


そうして、師匠は下手舞台袖へ。
私は舞台の真ん中に、一人。



「さあ、行きましょう」


舞台が真っ暗になりました。
何も見えません。



「ドンドンドン・・・・」という音とともに
客席の空気が急に肌に伝わってきて、
緞帳が開いたことがわかります。



若紫に十返りの花をあらわす松の藤波〜〜〜



「ぱっ!!!!」


明かりが点いて、三味線の音が響き

私の「藤娘」が動き出しました。


★「ぱっ!」の瞬間です。★
まだちゃんとした写真をいただいてないので、
ビデオの画像を・・(^^;)す、すみません・・苦肉の策・・


たぶん、顔は、
こわばって、なかったと、思い、ます、よ?
先生(^^)♪



さて、踊ってるときの、私、のこと
どう表そうか、ずっと考えていたのですが・・


細かくここに書いていたら、キリがないので(笑)
ほんの少しだけここに記します。


緊張はしていたけれど、気持ちは落ち着いていた。


草履がすべるので、少し怖かった。


とにかく、三味線と唄に耳をすませて、
丁寧に丁寧に動こうとした。
三味線の音はとてもよく聞こえた。


客席で、デジカメを構えてる人が見えて
「あー、だめだよー写真は」と思った(笑)。


藤の枝が下浚いのときには、沢山袖にひっかかったけど
本番でひっかからなくてよかった。


鏡山〜はもう少し、じっくりねばって、踊りたかった。
間が余りそうになったとき、
先生の声を思い出した。
余りそうなときは、より丁寧に、
余ったら、落ち着いてじっとしてろ。


手ぬぐいの持ち直しが、ほぼうまくいってよかった。
帯も、一発で取れてよかった。


「ようも乗せたり、わしゃ乗せられて」
いつも合わなかった間が合ってよかったけど、
もう少し手ぬぐいを綺麗に振りたかった。
「ふみもかただの、かただより」
お稽古で叱られたことをそのままやった。
踊りながら「しまった」と思った(笑)。



藤音頭の出は、気持ちよかった。
たまらん。あれは。
あそこだけ、もう一度やりたい(笑)。


藤音頭の踊り初めの
トンテンチンリントンテン・・・のところも気持ちよかった。


でも、息が苦しかった。太ももが辛かった。
口を何度も開けたくなった。大きく息がしたくて。
でも、気持ちは、演じる事を忘れないよう頑張った。



踊り地。
くやしい。体力の限界だった。
藤音頭で使い果たしてしまった。
「踊り地の前に使い果たすなよ」と
あれほど言われていたのに。



もっと丁寧に踊りたかった。
気持ちは丁寧に踊りたがっているのに
身体が負けた。
すごく急いで踊ってしまった。
キマるところはもっとちゃんとキマって、
優雅に踊りたかったのに。


お稽古で踊り地を踊るのが大好きだったのに。


気持ちが焦って、早く踊ってしまったのなら
仕方ないなあーと思うけど、
身体が負けてしまったことは本当にくやしい。
長い時間をかけて教わった大切なことを
体力不足で表現できなかったことがくやまれる。



体力の限界の中で、
出来る限りの精一杯をつくし、
先生に言われた事を必死にやろうとはしていたが
身体が言う事をきかない。
お客様は、どうご覧になったのだろう。



それにしても体力不足だなんて、
芸以前の話だ。
私の大きな反省点だ。



けれど、これらはすべて
本番で踊ってみないとわからないことだ。


「あのね、本番で踊る数十分の間にね、
あなたはものすごく、沢山の、
いろんなことを勉強するよ。」

師匠が以前、私に仰った言葉が
今になって胸に大きく響く。
ホントだ。ホントにそうだ。




楽しく、きつく、息苦しい
最高の、27分間だった。




後でビデオを見たとき。
私は、自分の踊りがどうのこうの、という細かいことの前に、
「こんな舞台で、踊った自分」に、改めて驚いてしまった。


なんという美しい藤。
なんという美しい長唄、そして三味線とお囃子。

なんという美しい衣装。

なんという幸せな空間に、自分はいたのか、と
それだけが最初に眼に入った。


そこで、「藤娘」を踊ってる人は誰?


ああ。これ、私なんだ。


なんということだろう。
 

そこにいる私のことを「幸せな人だ」、と思った。


「幸せな人」である自分を見ることは、
幸せだ、と思った。


太ももと膝に残る、名残の痛みをさすりながら
また、この痛みに耐えて、
「幸せな私」に会いたいと、
心から思う。


頑張ろう。これからも。ずっと、ずっと。

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