本番当日のこと

どうしようかな、と思いましたが。


本当のことを書くことにします。
恥ずかしいですが。
どのように本番を迎え、終えたか。
事実を素直に書きます。
今後への戒めも含め。


☆フォントをいじらず、そのまんま、日記形式で書きます。
 読みにくかったらごめんなさい、です(T^T)




本番を二日後に控えた9月8日。
私はあるスタジオで、珍しいモデルの仕事をしていました。
食器メーカーの仕事で、食品を沢山扱う撮影だったので、
スタジオは冷蔵庫のようにクーラーが効いていました。


その前に。


この仕事のために自前で持ってきて欲しいと言われた荷物が
あまりに重くて。
スタジオに向かう道すがら、その重い荷物を持っている中で
「アレ?やばい?」という腰の違和感を感じていました。


「気のせい」。
そう言い聞かせ、仕事を続けていましたが、
クーラーの風はどんどん私の腰を蝕み・・。



まっすぐに立っているのが精一杯、という状況になって行きました。


なんてことだ。
明後日は浴衣浚いだよ?
何、この腰痛。まずいよ。なんとかしなくちゃ。


控え室でストレッチをしても・・何をしても・・。
どうにもならない腰の痛み。


撮影を終えた私は、
お稽古場に向かいました。
「踊れば・・治る!」
根拠のない自信。
でも、また、お稽古場に行くのに、この重い荷物を全部
持って行かなくてはならない。



肩に食い込む荷物。
歩けば歩くほど、腰が痛い。
本当にまずい。


「踊れば治る。気合で治る」
また、そう言い聞かせ、お稽古場に入りました。


何もご存じない笑顔の師匠。


絶対にわからないようにしよう。
ちゃんと踊ってみせる。



私のお稽古が始まりました。



「なんで、そんなに姿勢が悪いの?」
「また。姿勢が悪い。疲れてるの?」
「何か、ごまかそうとしてる動きをしてる。
 ヘンに芝居がかって。おかしいよ?」


師匠に、隠し事なんかできっこありませんでした。


思わず顔をしかめた私に。

「どこか痛いんだろう?腰?」


バレました。



「もうなってしまったものは仕方ないから。
今日のお稽古はしょうがないね。
どこか痛いと踏ん張りが利かないから
ちょっとずつ間が早くなる。
それをごまかそうとして、へんな芝居をする。
踊りが安っぽくなっちゃうよ?」



うわっ。何もかも本当にバレてる。すごい。
踏ん張りの利かない体をごまかそうと
顔の表情でごまかそうとしていました。確かに。



「どうしましょう。私。」
「どこか痛い時にはね。もう、ごまかそうとしない。
丁寧に、ゆっくり、ゆっくり踊るの。
特別なことをしようと思わない。
ゆっくり、ゆっくり動きなさい。」



私はこの日、自分のお稽古を一曲していただいただけで
帰ることにしました。
師匠は優しい笑顔で、
「そうだね。そのほうがいい。そういう日があってもいいでしょう」と
私を送り出してくださいました。
重い荷物は、妹弟子が、コンビニまで運んでくれて
宅急便で送ることにしました(笑)



9月9日。前日。朝。
午後から最後のお稽古をつけていただく予定でした。
しかし。


私の体はまったく回復してませんでした。
どうしようどうしよう。


「休む勇気も必要。休め」
親友の花柳多智雛さんが
私に送ってくれた言葉。


「休む勇気」


私は、この最後のお稽古を休む決意をし、
師匠に電話をしました。


熱が38度あってもお稽古に行っていた私。
体調のせいでお稽古を休むのは
実は、これが初めて。


師匠にもご心配をかけてしまいました。


私:「休むのも勇気、かと・・。」
師匠:「そうだね。それも、お稽古のうちだ。」


「休むのもお稽古のうち」と言ってくださった
師匠に心から感謝です。



できることはなんでもやろう。


近所の整形外科に行き、
様々な検査をして・・・。
レントゲンの結果、私の腰骨の一番下の椎間板が
かなり磨り減っていることが判明。
今後は定期的なリハビリをしていく必要があるとのこと。

悪いところの原因が見つかったのはいいけど・・・・



「明日日本舞踊の会なんです。なんとか・・してください」


医者:「わかった。10をゼロにはできないけど、
7や8にはできる。
それを今日やろう。
腰と背中に直接注射するよ?いいね?それと飲み薬ね」


げげ〜〜〜。
注射かあ!!!!


ええい。なんでもするさ。踊れればなんでもいいさ!


背中と腰に四箇所、注射・・・
いや〜〜〜な鈍痛を伴う注射でした・・・・。


そして飲み薬3種類。


お医者さんに「明日は頑張って踊って来てくださいね!」と
笑顔で励まされました。
薬局のお兄さんにも「明日は日本舞踊、頑張ってくださいね!」と
励まされました。


何かあるたびに、最近、周りの人が
果てしなく優しい。


お恥ずかしいのですが、私、薬局の前で
一人、オイオイと泣きじゃくってしまったのでした。





家に帰ってしばらくすると、
師匠からお電話が。
経過をご報告し、なんとかなりそうな旨お伝えしました。


「自分の体のことがわかって、対処もできて
 よかったじゃないか。
 今日は、そういうお稽古だったんだよ。
 大丈夫。準備して、早く寝なさい」



「今日はそういうお稽古だったんだよ」という言葉が
心に染み込みました。



師匠も優しい・・・(T^T)・・・・



その夜、やっぱり不安で、
どうしても、誰かと話がしたくて、
私は恵里ちゃんこと・花柳多智雛さんに電話をしました。
下関へ、遠距離電話。


「かくかくしかじか・・・」
「そっかあ〜〜!でも大丈夫だよぉ!」


多智雛さんの声はものすごく明るくて、
最初、死にそうな声だった私もだんだん
つられて明るくなってきました。


「あみちゃん!あみちゃんはぁ!
明日はね、楽しく楽しく踊ればいいのぉ!
だってさあ、あみちゃん、すげ〜頑張ってきたんだよ?
あみちゃんはすごいんだよ?
楽しまなくっちゃ損だよ♪

よ〜〜し祝杯だあぁ。いい音聞かせるよ♪
(ぷしゅぁ!)

聞こえた聞こえた?
今ビール開けたの!ごくっ、ぷふぁ〜〜うま〜〜♪」



・・・・こんなやついない(T^T).
私のためにビール飲んで(笑)元気づけてくれるなんて。
涙が出てきた。


「え、恵里ちゃん・・あ、ありがとう!
 私、明日踊るよ!踊ってやる〜〜!」

「そーだそーだ♪踊れ踊れぇ〜〜♪♪」


75分も喋ってた(笑)。

でもとっても楽しい会話で、
私は笑ってるうちに、本当に元気になってきて、
体のことを受け止めつつ、ものすごく踊る意欲に満ち溢れた状態に
してもらったのでした。


ありがとう恵里ちゃん。


長い長い踊り人生の中で・・・
きっとこれからもいろんなことがある。
今回の自分の失敗を
きちんと受け止めよう。
こういうときはどう対処するのがいいか、ということを
私は勉強させてもらったのだ。


オリンピック選手で、体調万全じゃないのに
金メダルを取った人なんて沢山いる。
私は私のベストを尽くそう。


そんな私の思いに神様も、ちょこっと応えてくださったのか、
本番当日、私は
お薬がよくきいて、
きちんと、まっすぐ姿勢よく立つことができたのです。


若干の痛みはあるものの
踊れない、というほどではない。




本番直前。



緞帳の中で、師匠と真起子先生に
「よろしくお願いいたします」と手をついてご挨拶。
師匠の笑顔を見て、
今日は師匠に後見をしていただけるんだなあと思い
私はとても幸せな気持ちになりました。




その幸せな気持ちのまま
私は舞台のど真ん中で、踊り初めました。
踊ってる間、私はとても楽しくて、
気分がよくて。


何度か師匠が見えました。
じっと、動かずに私の踊りをご覧になっている師匠。


師匠に教わったことを
今日私が出来る全てを出して、
出来る限り、出来る限り表現しよう。



楽しいなあ。楽しい。
踊りを踊るのはなんて楽しいんだろう。



楽しい気持ちのまま
私は最後まで踊りきることができました。




正直言います。
体調は100%じゃなかったです。
腰は、やっぱり痛かったし、足もしびれていました。
へたっぴだった言い訳の意味ではなく
それは事実として。


でも私、この日の私の100%を出せました。


去年、体調万全で臨んだ浴衣浚いの「田舎巫女」。
滑る足元に気を取られて、
動揺しているうちに終わってしまったあの時は
私はもう、悔いだらけで、踊り終わって
くやしくて泣いたけれど。


「相模蜑」の私は、100%だったので。
私自身は踊り終わって充実した気持ちでした。



「体、苦しそうだったな」
師匠のお言葉。


あっちゃあ〜〜そう見えないように踊ったつもりだったが・・


「大丈夫。それがわかるのは
僕一人だから。
僕はずっとあなたの踊りを見てきたから。
他の人にはわからないよ。大丈夫。」


「先生。姿勢は?姿勢はどうでした?」

「姿勢は大丈夫」

私のいいところは姿勢がいいこと。
ただでさえ「いいところ」が少ないんだから、
いいところは大事にしたい。
姿勢が悪かったらアウト。


よかった。


師匠は私に絶対にウソをつかないから。
きっと私はいい姿勢で踊れたのでしょう。



それにしても舞台の上というのは面白い場所です。


お稽古とは違うことを、何かやってしまう。


眠って急に起こされてもいきなり踊りだすであろう程に
忘れようったって、忘れようがない程に
私は振りを覚えていたのに。


いままで一度も間違えたことのないところで、
違う手の動きを3箇所ほど、やりました。


あがって、わけがわからなくなってやったんではなく、
極めて冷めた目でもう一人の私が、
違うところに手を置いている自分に向かって
「おいおい。そこじゃないよぉ」と
つぶやいていました。



そして、直前まで、よく微妙に間をはずして、
「ああ〜〜気持ち悪い〜〜」と師匠に言われていたところは
バッチリ間に入りました。
「おおし!入った入った♪」と
喜びつつ踊ってました(笑)。



踊れてよかった。


でもそれは自己満足。
体調不良だったことは・・・・心から反省しております。



今度皆様の前で踊る時には、
絶対体調万全で臨みます。
その誓いをここに。


その日までまた、一所懸命お稽古いたします!!


舞台で踊るといろんなことを学びます。
「相模蜑」も
今回いろんなことを私に教えてくれました。


最後に。


お稽古の帰りに、
コンビニまで重い荷物を運んでくれたちえさん、
心配して夜にメールをくれたみちよさん。本当にありがとう。

当日、朝早くから着物を着て
私の荷物を持ってくれて、走り回って私を手伝ってくれた
まなちゃん。本当に本当にありがとう!
遠くからお祝いを持って飛んできてくれたちえみさん、ありがとう!


楽屋を訪ねて、いろいろと手を貸してくださった、
豊勇さんを始めとする同門の先輩の皆様。
本当にありがとうございました。


せっかくのお休みの日に、私たちのために
足を運んでくださったお客様。
本当に本当にありがとうございました。


そして。


メソメソと泣いたり、ぐちぐちと落ち込んだり
ダメダメ状態になりそうだった私を
叱咤激励し、最後まで引っ張って、
これでもかと色んなことを教え続けて下さった、
我が師匠、藤間達也先生に心から、心からの感謝を贈ります。

本当にありがとうございました!


皆様。私はますます。ますます、踊ってまいりますので
今後とも末永くよろしくお願いいたします!!!!!

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